2008年12月1日月曜日

【第40回】ロボカップジュニア⑤


― 都立高専との出会い ―

ここ3年程、RISE科学教育研究会(トゥルースの視線第10回・37回参照)が主催する、夏休みに行うロボットコンテスト「サマーチャレンジ」(ロボカップジュ二ア関東ブロック運営委員会共催)は、都立高専(旧東京都立工業高等専門学校・現東京都立産業技術高等専門学校)を会場とし、都立高専の先生方や生徒の皆様のご協力の下、運営されています。競技に参加してロボットを学ぶ先輩として、後輩のために目標を示してくださる生徒の方々もいらっしゃいます。また、今年はX'masチャレンジ&パーティーの会場として、学校の一部をお貸しいただくことになりました。

2004年ロボカップジュ二ア関東ブロック大会は当初都立高専で行う予定でしたが、様々な経緯を経て最終的には日本科学未来館で開催。しかし、ロボカップジュニアは皆がボランティアで運営しているため経費も労力も大きな負担となることから、2005年はどこで開催するかが問題になりました。といっても、参加チーム数が年々増加する関東ブロック大会を開催できる規模の施設はそう簡単には見つかりません。昨年快く会場を提供してくださったにもかかわらず、会場を他の場所に移し不義理をしてしまった都立高専にお願いするしかありません。果たして都立高専の先生方は、この無節操で無礼な申し入れを受けてくれるだろうか?関東ブロック運営の基礎を作ってくださり、現在もご尽力を頂いている品川区の岩崎さんと一緒に、不安と申し訳ない気持ち一杯で先生方に頭を下げてお願いした次第です。

都立高専の先生方から頂いた回答は、参加を望む子供たちが困らないよう都立高専をお使い下さい、といった内容だったかと思います。あまりに胸が一杯になってしまって具体的なお言葉を忘れてしまいましたが、その時最も感じたのは、「高い見識がここにはある」ということです。都立高専という歴史も伝統もある学校が体裁や体面を遥かに超越し、「子供たちのため」ならそんなことはどうでもいいですよ、と言ってくださった先生方の広く深い心に胸が打たれたのです。実利や利害を求めるばかりの昨今、これ程までの純粋で高貴な心に接し、涙があふれそうになりました。

以来、数年間関東ブロックは都立高専の先生方とRISE科学教育研究会のメンバーが中心となって運営され、現在では実に多くの方々がご協力してくださり、中には今後運営の中心的な存在になっていただけれる方々も見られるようになりました。

至らぬことは多々あり微力ではありますが、私が関東ブロックの発展と普及に邁進してこれたのは、ひとえに当時の都立高専の先生方の高潔な精神を裏切らぬよう、少しでもご期待に応えられるよう、頑張らなければいけないという気持ちだったと思います。本当に大切なことを教えていただきました。2年前、関東ブロック委員長に黒木准教授、副委員長に富永准教授(東京ノード長兼務)に就任していただき、関東ブロックはより強固な組織になりました。

今後も、小学生~高校生対象のロボットコンテストの最高峰であるロボカップジュニアに貢献し、参加する子供たちがより意義を感じられる活動になるよう努力していきたいと思っております。

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2008年11月1日土曜日

【第39回】ロボカップジュニア④


― ロボカップジュニア初期の活動―

当アカデミーが2000年10月年板橋区でレゴの教室を開いた当時はまだまだ認知されず、その後1年半あまり十数名の生徒数でした。2001年に日吉校を開校。偶然にもロボフェスタというロボットの大きなイベントがパシフィコ横浜で行われ、ワークショップを依頼されました。この時からでしょうか、日吉校に生徒が集まるようになり、ロボットの活動をスタートさせました。その生徒たちの中から、今でも「FC日吉」という呼ばれる4人の仲間ができました。

2002年には千葉市の県立現代産業科学館におけるサッカー練習競技会において、高校生を相手に優勝。2005年の関東ブロックでは、このメンバーを中心にサッカープライマリー優勝・準優勝・3位と独占。当時はサッカーだけの時代でした。彼らは今や高校生となり、私が科学館などでロボット講座を行う際に手伝ってくれたり、教室用のロボット製作を担当してくれたり、様々なところで協力してくれています。

そのような活動をしている中、彼らを打ち破って板橋区の教室(当時の城北教室)から「クイック&スロー」というチームが、2004年リスボン世界大会に出場。しかし一方で、精神的に苦しいものを感じるようになってきました。
「クイック&スロー」は、某県で開催されたある競技会で2年連続優勝を果たしていました。彼らはその年、競技会のアナウンスにより、関東ブロック大会の推薦が約束されたと信じていました。しかし、折りしも東京ノードが新たに立ち上がり、他県の練習競技会で優勝したチームを東京ノードの代表として推薦することは当然できません。しかも、その県のノード代表としての推薦を得られる立場はにない。結局、関東進出を約束された某県での優勝は忘れて、東京ノードに出場して予選の最初の一歩から戦うことになったのです。

そのとき私が感じたことは、競技会に生徒たちを出場させることはある意味生徒たちを人質に取られてしまうことにもなる、正しい運営がなされなければ傷つくのは参加した子供たちに他ならない、ということです。そのような経験から、当アカデミーの生徒のみならず参加する生徒たちが気持ちよく参加でき、その意義を感じる大会運営を実現するためには、ロボカップジュニアの運営に参加する以外の方法はない、と思うようになったのです。

そして、2004年3月日本科学未来館での関東ブロック大会の実行委員長の任命を受け、全体を統括運営。同年9月、「ロボカップジュ二アジャパン関東ブロック運営委員会」が組織され、「公平かつ公正な運営」「教育的観点を大切にする運営」をスローガンに初代委員長を拝命。2005年5月には日本科学未来館でのロボカップジュ二ア日本大会を運営しました。

その過程で、都立高専(東京都立工業高等専門学校・現東京都立産業技術高等専門学校)の先生方との実に感動的な出会いがあったのです。


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2008年8月1日金曜日

【第38回】ロボカップジュニア③


― ロボカップジュニアの大会―

ロボカップジュニアの大会は、関東では1月~3月中旬くらいまでの間に、都県単位の「ノード」と呼ばれる地区予選会から始まります。ここで勝ち残ると3月末に行われる「関東ブロック大会」に、そして、この大会でトップクラスに入るとGWに行われる「ジャパンオープン」に出場することができます。

ジャパンオープンはジュニアだけではなく、「ロボカップサッカー」や「ロボカップレスキュー」といった人工知能やロボット工学を研究する大学の研究室や企業が参加するカテゴリー(ジュ二アに対して「シニア」と呼ばれています)と基本的に同一会場で同時に行われます。参加した子供たちは、まさに最先端のロボットが実際に動く姿を目の当たりに見られるわけです。ここがロボットの製作を通じて科学技術を学ぶ子供たちにとって、最も魅力的な点であり、学習の場として最高な点なのです。開催地は毎年自治体から公募し、これまで新潟や大阪、北九州、沼津(今年)などで行われてきました。

さらにジャパンオープンで上位2~3チームに入ると、6月~7月に行われる「世界大会」出場の推薦を受けることになります。世界大会もシニアと同一会場で行われ、毎年30数カ国からのチームが参加しています。これも開催地は世界中の自治体からの公募。当アカデミーがロボカップジュニアに関わるようになってからは、福岡、パドバ(イタリア)、リスボン(ポルトガル)、大阪、ブレーメン(ドイツ)、アトランタ(アメリカ)、蘇州市(中国)で開催されています。

ジュニアの開催期間は、ノード大会とブロック大会は1日、ジャパンオープンは3日間、世界大会は5日間(学校も1週間休まなければなりません)ですが、シニアの場合オープンな場での競技会とは別にシンポジウムも開催されるので、これよりさらに期間は長くなります。また、ジュニアは小学生~高校生まで参加できるのですが、小学生~中学2年生までの「プライマリ」と中学3年生以上の「セカンダリ」とに分かれて競技が行われたり、評価されたりします。当アカデミーは必然、プライマリのチームが圧倒的に多いことになります。

当アカデミーからは、毎年関東ブロック大会には十数チーム、ジャパンオープンには数チームが出場し、世界大会は最低1チーム(最高3チーム)の推薦を受けています。上位大会の出場は推薦を受けたチームが参加の意思を表明することで決まるので、参加を辞退することも可能です。基本的には小学高学年~中学の間にこのような大きな舞台に立つことは、精神的な成長を大きく促すのでぜひ参加して欲しいと願っているのですが、当アカデミーではこれまで、諸般の事情で残念ながら世界大会を辞退したチームが2つありました。

なぜ、当アカデミーはこれだけの実績を上げているのか?その秘密については、また機会を改めてお話したいと思います。



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2008年7月1日火曜日

【第37回】ロボカップジュニア②


― ロボカップジュニアとの出会い―

2002年、レゴエデュケーション日本代理店・株式会社ラーニングシステムの石原正雄社長から、「ロボカップジュ二ア」というロボットコンテストが関東で初めて行われるので、レゴダクタ教育システム導入教室(当時、日本国内初のレゴエデュケーションを実践する教室です)からもチームを出したい、ついてはトゥルース・アカデミーからも誰か興味のある生徒がいたら参加させませんか、というお声をかけていただきました。当アカデミーからは1名の生徒が出場しました。日本で初めてのロボカップ世界大会が福岡で開催された年です。

ロボカップジュニアには「サッカーチャレンジ」「ダンスチャレンジ」「レスキューチャレンジ」がありますが、当時はレスキューも国内では立ち上がっておらず、サッカーだけの競技会です。日本科学未来館7Fの狭い会議室で行われました。レゴダクタ教育システム導入教室からは教室混成の1チームのみ。他は埼玉県のS中学の生徒たちが数チーム。ほとんど内輪の競技会といった感じです。私たちもサッカー競技とはどんなものか、詳しいことは当日まで分からず、生徒たちも競技会当日会場入りしてから数時間、石原社長に指導していただく、という全く即席の学習で参加しました。そんな中、競技会場にいる大人と言えば、主催の埼玉大学教育学部・野村泰朗助教授、石原社長、S中学の指導をなさっているN先生、そして引率と好奇心に駆られてやって来た私と当アカデミーの池田(統括マネージャー・日吉教室長)のみ。ロボットサッカーなので審判が必要です。誰が審判をやるか?ということになり、実質的にチームの指導に携わっていない私と池田が審判を行ことになって、期せずして初めて関東でロボカップジュニア・サッカーの主審として笛を吹く羽目になってしまいました。

これが、当アカデミーとロボカップジュニアの最初の出会いなのです。

その後、野村先生が主催するサッカーチャレンジを題材とした埼玉大学21世紀総合研究機構「ものづくり教育センター」のワークショップに毎回参加。当時は、真っ先にロボットに取り組んでいた日吉教室の生徒たちが、日吉から渋谷、そして南与野からバスと、毎回長い移動時間をかけて埼玉大学まで足を運び、サッカーチャレンジに必要な技術を学んでいました。これと並行し、他のレゴダクタ教育システム導入教室にも声をかけ、関東でのロボカップジュ二アの輪が少しずつ広がってきたのです。

その活動と交流の中から、「RISE科学教育研究会」が誕生。レゴダクタ教育システム導入教室の中から、日本の教育に一石を投じようという志を持ち、教育的な実績も高い教室に声をかけ、ロボットを中心とした新しい科学技術教育のカリキュラムと手法を開発する研究会を組織しました。子供たちが広くロボット教育に参加できる機会である「こどもロボット研究室」、ロボットを学んでいる子供たちの活動の発表の場としてのロボットコンテスト「サマーチャレンジ」、自然をフィールドとしてプログラミングやセンサーを駆使して行うデータロギング活動「RISEサマーキャンプ」は、その教育活動の一環として現在も毎年行っています。


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2008年6月1日日曜日

【第36回】ロボカップジュニア①


― そもそもロボカップ(RoboCup)とは?―

Truth通信ではよく登場する「ロボカップジュ二ア」ですが、あまり詳しく説明する機会も少なく、一体これって何なの?という方もいらっしゃるかと存じますので、当アカデミーとロボカップジュニアとの関わりを含め、改めてご紹介させていただきます。

そもそも「ロボカップ(RoboCup)」とは、「2050年までにロボットのサッカーチームが人間のワールドカップ優勝チームに勝つこと」を目標にしている国際的なランドマーク・プロジェクトです。ランドマーク・プロジェクトというのは、月に人間が降り立つとか、チェスの名人をコンピューターが打ち破るとか、誰にでも分かりやすい夢のある記念碑的な目標を立て、その夢の実現を目指すプロジェクトのことを言います。ロボカップは、ロボット工学と人工知能の融合・発展のために自律移動ロボット(リモコンではなく自分で判断して動くロボット)によるサッカーを題材として、日本の研究者によって提案され、1992年に発足しました。ロボカップ国際委員会を中心として運営されており、現在35カ国ほどが参加しています。日本では、NPO法人であるロボカップ日本委員会が運営に携わっています。

ロボカップには、「ロボカップサッカー」「ロボカップレスキュー」「ロボカップジュ二ア」の3つの大きなカテゴリーがあります。ロボカップサッカーは、「小型ロボット」「中型ロボット」「四足ロボット」「ヒューマノイドロボット」「シュミレーション」の5つのリーグで構成されています。今年の沼津ジャパンオープンでは、「マイクロサブリーグ」も登場しましたが、小型ロボットリーグは開発が行き着くところまで進んでしまったようで、いずれなくなるかもしれないとの話もあります。また、大学生を中心にソニーの犬型ロボット「AIBO」を使った四足ロボットリーグも、AIBOの生産が中止されたため、いつまで続けられるのか分かりません。

ロボカップサッカーの花形はなんと言っても、人間型の二足歩行ロボットを使ったヒューマノイドロボットリーグでしょう。産学連携共同開発グループ「TeamOSAKA(チーム大阪)」が「VisiON(ヴィジオン)」というロボットで、昨年までの4年間連続して世界大会優勝を果たしています(今年もジャパンオープンで優勝)。テレビや雑誌にも時々出ていらっしゃるロボットクリエーターの高橋智隆さんの所属しているチームです。この4年間で、ボールを探す、ボールのところまで歩いていく、ボールからの距離を測り立ち位置を決める、ボールを自分が決めたところまでキックする、といった動作が格段に速くなり、姿勢も安定してきていると思います。

次回から、実際に大会に出場したエピソードを含め、詳しくご説明したいと思います。


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2008年5月1日木曜日

【第35回】生のための学校 「フォルケホイスコーレ」⑦


― 全寮制「エフタスコーレ」―

「エフタスコーレ」は、義務教育段階の第8学年と第9学年(日本の中学2・3年)、デンマーク独自の制度である第10学年の生徒が通う全寮制の私立学校です。学べる期間は1年のみ。これもコルによって創設されました。1校当たり約85名の生徒数。教員は10名前後で、校長や専任講師(2~3名)は学校敷地内の教員住宅に住んでおり、大きな家族として長い時間を共に過ごします。最も精神的に不安定なこの成長期に、家族から離れ、同世代の子供たちと寝食を共にすることによって、自分の在り方や親との関係を相対化し、自立し成熟した若者に成長する効果は大きく、最近になって世界から注目されるようになりました。午前は10人程度のクラスで数学、理科(物理・化学・生物)、語学(英語・ドイツ語必修、フランス語選択)を学び、午後は1クラス5名程度の様々なワークショップに自由に選択して参加。生徒の自己決定権を重んじ、週に1回、全生徒と全教員の会議が開かれるそうです。

毎日、新聞やテレビで報道される忌まわしい事件や様々な政治や経済のニュース。決してフィンランドやデンマークの人々が皆幸福な人生を生きているとは言えないでしょう。また、深刻な社会問題も抱えていることでしょう。しかし、参考になる点がとても多いのも事実です。私も歳のせいでしょうか、日本の社会は今後どうなるのだろう?日本人はどこに行くのだろうか?と不安を感じることが多くなってきました。日本や世界を変える原点として、教育の在り方そのものをもっと十分に、真剣に議論し、子供や孫の世代にはもっと希望が見出せる社会が創り出せれば・・・。そんなことを願いつつ、コンストラクショニズム・ハンズオン・オープンエンドの3つのキーワードをベースに、輝く子供たちの瞳を想像しながら、スタッフ一同、日々授業案を作成する毎日を送っています。


【参考】・日本グルントヴィ協会
(http://www.asahi-net.or.jp/~pv8m-smz/)
・『生のための学校』(清水満著:新評論)

※数年前、図書館でこの本と出会い、ずっと手に入れたいと思っていましたが、残念なことに絶版となっていました。出版元「新評論」を訪ね、最後の在庫である1冊を分けて頂きまし た。本当にありがとうございます。この場を借りて御礼申し上げます。
  
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2008年4月1日火曜日

【第34回】生のための学校 「フォルケホイスコーレ」⑥


― 義務教育課程「フリースコーレ」―


デンマークの義務教育の特徴は実にユニークな面があります。

●就学義務はなく、自分で学ぶ権利がある
●第7学年(中1)まで試験は禁止
●1クラス28名以下
●公立学校に不満があったり閉鎖されたりした場合、自分たちで私立学校を作ってよい 
●行政は私立学校の経費の75%を補助しなければならない 
●私立学校の教員は教員資格がなくても構わず、普通の人でもなれる 
●転校は自由。学区制はない 
●公立、私立とも理事会が運営する(公立では通常12名の理事の内、生徒代表委員2名の参加が義務) 
●第10学年があり、自分の意思で義務教育期間を10年にできる(半数以上が選択) 
●公立、私立とも放課後4年生までの集う施設を持つ

これらは、フォルケホイスコーレの義務教育課程「フリースコーレ」の影響が公立学校にまで及んだ成果です。

最初の私立小学校「フリースコーレ」は、グルントヴィの教育方針に基づき、伝説的な一人の偉大な教師クリステン・コル(1816-1870)によって約160年前に作られました。コルは、「学校は、子どもたちが他のどの場所にいるよりも一番幸福で自由でなければならない」「子供は国家に帰属するのではなく親に属するのだ。だから両親は、子供の一時期に責任があるのではなく、そのすべての精神的な成長にわたって、責任があると理解しなければならない」と宣言しています。

フリースコーレでは、1クラス平均11名。普通は7年間、中学過程を持つ学校は9年もしくは10年間通う。授業科目やカリキュラムは自由度が高く、各校で異なるが、共通点としては創造的な科目(音楽・美術・陶芸・木工・金工・染物・ダンス・身体表現・演技・デンマーク体操など)を重視。また、「生きた言葉」の思想を受け継ぎ、教師や生徒が様々なことを語る「お話の時間」が必ず設けられているとのこと。理科は実験中心で、数学や英語でも模型や人形を作らせるという形で、創造的な手仕事(ハンズオン・ラーニング)をさせ、集中度や興味を高めているそうです。

フリースコーレでは原則最後まで試験はしませんが、卒業時に義務教育の過程を修了したことを証明する国家試験は受けなければならないそうです。次回、さらにユニークで世界的にも注目されている「エフタスコーレ」を紹介します

【参考】『生のための学校』(清水満著:新評論)

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2008年3月1日土曜日

【第33回】生のための学校 「フォルケホイスコーレ」⑤


― グルントヴィの思想(2)―

 前回に続き、グルントヴィの教育思想を紹介いたします。現代日本に何か忘れたものを感じさせる思想です。

①生きた言葉と死んだ言葉
生きた言葉で語り合う学校では、死んだ文字の書物による教授・暗記・詰め込みは廃止。人々は生の経験を重ねる中で、心の奥底に目覚めた生命の炎を語り合い、耳を澄ませることが大切で、「よい耳を通してこそ、精神の目は開かれる」と述べています。

②相互作用と対話
「相互作用」とは、異なる他者との生きた言葉によるコミュニケーション。目に見えない超越的な世界と現象世界、心の奥底の世界と外の身体の世界、知識人や学者の世界と普通の人々の世界、ある民族と別の民族、自然と人間社会など、対立する世界を相互作用によって媒介するのが生きた言葉なのです。

③歴史的―詩的
どんな人間でも歴史的存在であり、生きた言葉によって先祖から連なる精神の伝承の中に生きています。これがそれぞれの人間性の奥底を形成します。人間の生、人類とは何かを知るための素材として、神話や民衆の伝承を対話の中で語り合う。郷土への愛と日々の生活の尊敬、人生の神秘を知り、人間性を高めていく。何よりも教師は、自身の感覚を磨き、人に語りかけ、若者の未だ固まらぬイメージ、生への期待を喚起しなければなりません。

④試験の廃止と生の啓発
グルントヴィによれば、試験とは、若者の経験の範囲では答えられず、ただ他人の言葉を繰り返すことで答えとするにすぎないような質問で、年長の者が若者を苦しめるもの。賢明な学校のシステムは試験に基づくべきではなく、絶えざる啓発に基づくものでなければならない。これを「生のオプリュスニング」と呼んでいます。「オプリュスニング」は啓蒙・啓発の意味ですが、自分の内からの覚醒を意味しているとのことです。

このようなグルントヴィの思想に基づき、1884年ロディンに最初のフォルケホイスコーレがつくられました。そして、クリステン・コル(1816-1870) という伝説的な一人の偉大な教師によって、国家の干渉を受けず、試験や訓練をせず、教師の語りかけによって生徒の自発性を尊重しつつ教育を進め、親と教師が緊密な連絡をとって授業内容を決めるというフォルケホイスコーレの原型が作られ、これが公教育に影響を与えて今日のデンマークでは公立学校でも当たり前になっているとのことです。

次回は、幼稚園・小学校(フリースコーレ)・中学校(エフタスコーレ)についてご紹介したいと思います。

【参考】『生のための学校』(清水満著:新評論)



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2008年2月1日金曜日

【第32回】生のための学校 「フォルケホイスコーレ」④


― グルントヴィの思想―

フォルケホイスコーレは、国民的詩人であり近代デンマーク精神の父であるグルントヴィ(1783-1872)により構想され、今日のデンマークを築く原動力となっています。彼はどんな思想の持ち主だったのでしょう?

牧師の四人兄弟の末っ子として生まれたグルントヴィは、豊かな自然と母親の愛情、土地の人々に囲まれ情操豊かに育ちました。特に、母や人々が語る伝説や昔話は彼の生涯に決定的な影響を与えたようです。北欧神話や歴史の研究に没頭した青年時代でしたが、父親の跡を継ぎ牧師になると、聖書中心主義に立ち既成の儀礼化したキリスト教会を批判し、その職を奪われます。しかし、真理は聖書ではなく、教会に集まる会衆の中にあると考えるようになりました。農村区の教区を支配し、文句も言わずに真面目に働かないと来世の幸福はないと脅す保守的・権威的な僧正に対して、キリスト教は地方の小さな教会に集まり、祈り、語り合う貧しき信徒の中にあるのだ、「初めに人間があり、そして次にキリストである」、逆ではないと説くグルントヴィ考えが社会改革を目指す民衆の心をとらえ、彼が書いた生涯1400を越える賛美歌と共に、既成の権威と戦う人々の精神的な支柱となっていきます。グルントヴィは、「真のデンマーク人」とは、「あらゆる人間の自由と独立、高貴な自負、名誉、尊敬を破壊するような言動の暴力者・学者・傲慢の高みにいる者たちと戦う者」と自由主義を唱えています。

また、「違いを違いと認め、その上で互いに作用し合い、差異を取り込む共同体」を目指し、よきデンマークをつくるにふさわしい民衆が育成されなければ民主制は衆愚政治に陥ると考えました。デモクラシーを支える学校が必要であると考えたのです。そして1838年、国王に乞われて『生のための学校』という冊子を書くのです。
彼の思想は以下の4つに集約されます。

①生きた言葉と死んだ言葉
②相互作用と対話
③歴史的―詩的
④試験の廃止と生の啓発



次回は、これらについてご紹介します。

【参考】『生のための学校』(清水満著:新評論)


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2008年1月1日火曜日

●2008年 新年のごあいさつ~未来を考える力


新年明けましておめでとうございます。旧年中は大変お世話になりました。昨年末のクリスマスパーティーでは、準備から運 営まで、多くのご父母の皆様に並々ならぬご協力を頂戴いたしました。当アカデミーの姿勢を温かい眼差しで見守り、ご理解・ご支援頂いていること、心より感 謝申し上げます。同時に、熱いご期待を痛切に感じ、日本の教育の一翼を担うべく新しい創出に向け前進しなければ、と襟を正す思いであります。本当にありが とうございました。昨年12月5日、経済協力開発機構(OECD)が、15歳を対象に2006年に実施した国際的な学習到達度調査(PISA)の結果を発 表しました。3回目となる今回は57カ国・地域から合計40万人、国内は約6000人の高校1年生が参加。日本は、「読解力」で前回(03年)14位から 15位、「数学的リテラシー(応用力)」は6位から10位に、「科学的リテラシー」でも2位から6位に順位を落としました。科学的リテラシーを詳しくみる と、「証拠を用いる」能力で2位だったものの、「疑問を認識する」で8位、「現象を説明する」で7位と、自ら課題を設定し説明する力に弱点があったようで す。また、科学に興味・関心や楽しさを感じている日本の生徒の割合は、さまざまな質問でOECD平均を軒並み下回っています。30歳で科学関連の職業に就 くことを期待している生徒の割合が日本は8%(OECD平均25%)しかいませんでした。OECDアンヘル・グリア事務総長は来日した際、「研究職に就く 人が少ないと、社会全体の革新ができない。高齢化や人口減が進む日本では、子どもたちが科学に関心を持ち、科学者や研究職になることに夢をもつような社会 にすることが大切だ」「日本の教育は今はあまり心配しなくてよい。しかし、20年後には課題があるかもしれない」とコメントしています。

地球特派員スペシャル「カーボンチャンス~温暖化が世界経済を変える~」では、二酸化炭素削減で現在世界をリードするドイツの事例を紹介していました。国 の誘導的政策により、太陽光や風力など再生可能エネルギーにシフト、地方や農村が活性化し雇用が生まれ経済も成長しています。番組中で老夫妻が何年もかけ て自宅家屋に断熱材を入れる工事を行う姿がありました。老い先短い自分たちからです。取材した江川紹子さんは、「未来を考えることはある種希望だと思う。希望を持てる社会というのが人間が幸せに暮らせる社会だと思う」と締めくくっていました。

一人一人が、今自分が生きている社会全体に目を向け、その現実を直視すること、そして、目の前の利益に目を奪われるのではなく、未来の次の世代が幸福に暮 らせることを目指し、長期的なビジョンを持って問題解決を図ることが大切なのではないでしょうか?しかも、グローバル化が進む21世紀に抱える問題は、様 々な要素が複雑に絡み合い、しかも地球規模で考えなければならないものばかりです。今こそ、「学力とは何か?」を考え直さなければならないのではないで しょうか?そもそも「従来日本が考えていた学力」と、「現在国際社会が求めている学力」とは決定的に異なっている、ということを認識する必要があります。 学習とは、立身出世という自分だけの目的のために、学習者自身が社会とのつながりを実感できない空虚な知識を獲得することではありません。今世界が求めて いるのは、独立的で責任ある個人の形成、すなわち「責任ある市民の養成」を最大目標とした、地球市民として成人生活を送るための知識・技術なのです。最近、「大人になったら社会のため、世の中の人々のために働きたいから、今、一所懸命勉強するんだ!」と目を輝かせて語る日本の子供が少なくなってきたと感じるのは私だけでしょうか?

子供たち自身が大人になったとき、当アカデミーの教室で学んだことが自分の中に生きているんだと実感でき、真に社会に貢献できる人物に育つことを目標に、新しい領域に挑戦しつつ教育内容のさらなる充実に全力で邁進いたしたいと存じます。
本年もご指導、ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。

では、未来世代が私たちにこう尋ねているところを想像してほしい。『あなたたちは何を考えていたの?私たちの将来のことを心配してくれなかったの?自分のことしか考えていなかったから、地球環境の破壊を止められなかったの?―止めようとしなかったの?』私たちの答えは、どのようなものになるだろう?」 
『不都合な真実』アル・ゴア著
(枝廣淳子訳・ランダムハウス講談社)
 
▲南極の半島「ラーセンB」
棚氷が崩壊
▲地球温暖化について
講演をするゴア氏

 
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