2008年3月1日土曜日

【第33回】生のための学校 「フォルケホイスコーレ」⑤


― グルントヴィの思想(2)―

 前回に続き、グルントヴィの教育思想を紹介いたします。現代日本に何か忘れたものを感じさせる思想です。

①生きた言葉と死んだ言葉
生きた言葉で語り合う学校では、死んだ文字の書物による教授・暗記・詰め込みは廃止。人々は生の経験を重ねる中で、心の奥底に目覚めた生命の炎を語り合い、耳を澄ませることが大切で、「よい耳を通してこそ、精神の目は開かれる」と述べています。

②相互作用と対話
「相互作用」とは、異なる他者との生きた言葉によるコミュニケーション。目に見えない超越的な世界と現象世界、心の奥底の世界と外の身体の世界、知識人や学者の世界と普通の人々の世界、ある民族と別の民族、自然と人間社会など、対立する世界を相互作用によって媒介するのが生きた言葉なのです。

③歴史的―詩的
どんな人間でも歴史的存在であり、生きた言葉によって先祖から連なる精神の伝承の中に生きています。これがそれぞれの人間性の奥底を形成します。人間の生、人類とは何かを知るための素材として、神話や民衆の伝承を対話の中で語り合う。郷土への愛と日々の生活の尊敬、人生の神秘を知り、人間性を高めていく。何よりも教師は、自身の感覚を磨き、人に語りかけ、若者の未だ固まらぬイメージ、生への期待を喚起しなければなりません。

④試験の廃止と生の啓発
グルントヴィによれば、試験とは、若者の経験の範囲では答えられず、ただ他人の言葉を繰り返すことで答えとするにすぎないような質問で、年長の者が若者を苦しめるもの。賢明な学校のシステムは試験に基づくべきではなく、絶えざる啓発に基づくものでなければならない。これを「生のオプリュスニング」と呼んでいます。「オプリュスニング」は啓蒙・啓発の意味ですが、自分の内からの覚醒を意味しているとのことです。

このようなグルントヴィの思想に基づき、1884年ロディンに最初のフォルケホイスコーレがつくられました。そして、クリステン・コル(1816-1870) という伝説的な一人の偉大な教師によって、国家の干渉を受けず、試験や訓練をせず、教師の語りかけによって生徒の自発性を尊重しつつ教育を進め、親と教師が緊密な連絡をとって授業内容を決めるというフォルケホイスコーレの原型が作られ、これが公教育に影響を与えて今日のデンマークでは公立学校でも当たり前になっているとのことです。

次回は、幼稚園・小学校(フリースコーレ)・中学校(エフタスコーレ)についてご紹介したいと思います。

【参考】『生のための学校』(清水満著:新評論)



To be continue・・・