2010年12月1日水曜日

【第56回】ハーバード白熱教室②

~ 聞く力と話す勇気 ~

ハーバード白熱教室@東京大学』の最後で、サンデル教授は講義の参加者たちに、こう語ります。
「私が素晴らしいと感じたのは、皆が異なる見解を示し、皆が深く根ざした信念によって異議を唱えながらもなお、お互いの意見に耳を傾け合ったということだ。そして問題の根底にある道徳原理を探ろうとして議論をしていたことだ。我々は問題を解決することはできなかった。しかし、ディベートや道徳的議論、公共の討議は大抵の場合、全員が合意するものではないだろう。世界を見渡せば、我々は異なる価値観が存在し、相反する道徳や宗教的信念に満ちたグローバル社会に生きている。今日の議論で我々は前進し、自信を得たと思う。自信と美徳と力を得たように思う。真剣なディベートをこの場でできたのなら、おそらくできるのは、この空間に集まった1000人だけではない。このような考え方、議論の仕方、論法、お互いに意見を聞き合うやり方は、意見が一致しない場合であっても、お互いに学び合うことがある。たぶんこれが我々の社会の中で公共的生活を実現できるやり方なのだと思う。これこそが私の願いだ」と。何かの目標に向かって(あるいは、何かを求めて)、信念と価値観に立脚して自分自身の意見を述べること、相手を尊重し相手の意見に耳を傾けることの大切さを改めて痛感しました。

その一方、日本の子供たちは最近「聞く力」が低下しているように思えてなりません。OECDが実施する国際的学力到達度調査(PISA)2006年「読解力」の分野で15位(2000年8位・2003年14位)という状況にも現れているように感じます。特に外部のロボット講座で講師の依頼を受けたときなど、話を聞けない子が非常に増えていることに驚きます。時には授業を止めて子どもたちに「学力とは聞く力なり」と話さなければならないこともあります。「ロボットのセンサーと同じように、耳から様々な情報が入ってくる。ちゃんと聞いていれば、その情報を基にいろいろなことを考えることができるけれども、聞いていなければ何をしたらいいか分からない、考える材料もないから考えられない。もし頭がよくなりたいのなら、ちゃんと聞くことが大切」。

また、これは今に始まったことではなく、サンデル教授も東大での講義の冒頭で日本人は大勢の中であまり意見を言わず、議論にあまり積極的に参加しないのではないかと心配していたことですが、間違えることを恐れて発言しない子が多いのも気になることの一つです。子供たちにはこんな話をよくします。「たくさん間違える人の方が偉い。間違えない人は自分の知っていること、分かっていることしか言わない、やらない。しかし、たくさん間違える人は、こうじゃないかな?ああじゃないかな?と自分の頭でいろんなことを一所懸命考えているから間違える。だから、間違える人の方が多くのことを学べる。間違えてもいいから自分の思ったことをどんどん言ってみよう、やってみよう」。教師が子供たちのどんな意見をも肯定も否定もせずに受け入れていくと、子供たちの中から自然と議論が生まれてきます。

「意見を言うことは勇気が必要だ。なぜそう考えるのか、議論を展開しなければならない。反論を受ける覚悟も必要だ。これができれば、社会に出て民主主義社会の市民になって活躍するとき、大きな力を発揮し自信につながると思う」(サンデル教授)


To be continue・・・