2011年6月1日水曜日

【第61回】科学的リテラシー④

~ 「有能な他者」と「足場つくり」 ~

科学リテラシーを育てるには「メタ認知」に基づいた理科学習を進めることが必要であり、そのためには「発達の最近接領域」に当てはまる課題設定が必要であることを、これまでお話してきました。今回は、問題意識や見通し、目的意識を観察・実験についての質の高い考察へと変容させていく、『発達の最近接領域に基づく足場つくり』についてご紹介したいと思います。

ヴィゴツキーは「発達の最近接領域」によって、子どもが独力でできる問題解決だけではなく、大人あるいは仲間との協同的な問題解決の存在を提起しました。これは、個人レベルの学習だけではなく社会レベルの学習が、子どもの認識を変容させる状況を作りだすことを意味しています。森本信也氏は、子どもの認識を変容させる社会的レベルの存在を「有能な他者」と呼び、教科書、インターネット、教師の助言、仲間の意見、観察・実験器具など多様に存在することを指摘しています。そして問題は、こうした情報群を子どもにとって「有能な他者」として認識させ、彼らに積極的に情報の引き出しを図らせるかであり、その方略が検討されなければならない、と。

こうした方略をブルーナーは「足場つくり(scaffolding)」と名付け、その機能を次のようにまとめています。
(1)学習課題に対する興味を喚起する。
(2)子どもが問題解決を必要とされるプロセスについて見通しや目的意識を持てるようにするために、課題を単純化し、問題解決に至る段階を少なくする。
(3)動機づけや学習活動の方向付けをすることにより、学習目標到達への追究意欲を維持するようにする。
(4)子どもの問題解決内容と望ましい到達点とのズレを常に明確化する。
(5)子どもが問題解決に失敗し、落胆する気持ちをコントロールする。
(6)子どもに問題解決の進行と共に、その時点で望ましい到達点を示す。

このような「足場つくり」すなわち授業展開ができれば、子どもは教師のちょっとしたヒントやアドバイスを聞き逃すこともなく、他のお友達のつぶやきにも耳を傾けます。そして、これまで学んだ知識の中から活用できるものを懸命に引き出そうともします。子どもが何か解決に向けてのきっかけをつかんだ時に、なぜか皆「いいこと思いついた!」と目を輝かせます。

しかし、一方的に知識を与える授業とは異なり、このような授業展開は教師にとっては難易度の高い指導力が要求されます。年齢によってもクラスによっても個人によっても、状況は千差万別だからです。授業の導入で興味や関心を喚起し、問題解決に向けて諦めることなく根気よく試行錯誤を繰り返すように促し、自分の力で成し遂げたという達成感を味わってもらうには、やはり一筋縄ではいきません。

問題解決を果たしたときの達成感こそが次の課題にチャレンジする意欲を生み出し、自然に自分の力で学力を伸ばしていくという、理想的な学力向上を実現することができるのです。

【参考資料】
『子どもの科学的リテラシー形成を目指した生活科・理科授業の開発』
(森本信也・横浜国立大学理科教育学研究会 編著)

To be continue・・・