2012年5月1日火曜日

【第69回】ものづくり教育の壮大なプロジェクト

~ 小中一貫校・八潮学園ものづくり教育 ~

平成19年に東京都教育委員会と品川区教育委員会が、「ものづくり教育プログラム」を開発・実施するための基本協定を締結。これを受け、平成20年に八潮学園と東京都立産業技術高等専門学校(以下、高専)が「ものづくり教育推進事業に関する実施協定書」を取り交わしたことによって、八潮学園でものづくり教育がスタートしました。すなわち、東京都が推進するものづくり教育の先駆的モデルとして位置づけられています。

八潮学園のものづくり教育には、ロボットの授業もありますが、「種の模型に挑戦!」(1年生)、「風車・ウィンドカーを作ろう!」(2年生)、「ペットボトルロケットづくり!」(4年生)、「紙飛行機と竹とんぼ作り」(7年生)、「エレキギターづくり」(9年生)…と、1年生から9年生まで内容は実に多彩です。8年生の「ボートづくり」では、人が乗れるボートを作り実際に川でボートを走らせるというのですから、さすが高専の先生方の指導だけあって、どの授業をとっても内容もレベルも本格的です。

小中一貫9年間を次の3ステップに分け、段階的なカリキュラム構成をしています。
第1ステージ(1~4年生):五感を使い興味・関心を引き出す基本期
第2ステージ(5~7年生):仕組みを理解して技能・表現の力をさせる創造期
第3ステージ(8~9年生):工夫して応用・創造に挑戦する探究期

この教育の主眼は、「早急にものづくり技術者を育成することではなく、ものづくり学習を通じて生徒の『学ぶ力』を育成し、児童・生徒が個々の特性を自己発見し自己実現へ向かう挑戦を促す」ことにあり、そのため、「対象を知識で理解してからものづくりを習得するのではなく、作ってみて不思議さや意外性を体験することに優先性を置く学習である。事実から理屈を理解して工夫する。つまり、感性、思考、知識の融合した創発的ものづくり学習を目指している」という理念の下に構成されているとのことです。

これは、小学校から中学・高校・大学・大学院へと一貫してつながっていくというビジョンを持ち、従来のペーパーを中心とした知識重視型の学習とは別の、ものづくりを中心とした体験型学習の柱を打ち立てようとする、東京都と品川区の壮大なプロジェクトなのです。
スタートしてから数年の成果としては、
(1) 教科横断的な「ものの見方・考え方」ができるようになった
(2) ものづくりを通じてサイエンスに興味をもつようになった
(3) 物を大切にし、ものづくりに関心をもつようになった
(4) 体験発表の場を設けることによりプレゼンテーション能力がつくなど、コミュニケーション能力の向上に効果的であった
(5) 共同作業でチームワークの大切さを知り、お互いの作品を認め合うことで、個性の確立と集団行動ができるようになった
(6) 失敗したときに原因箇所を探索し、問題解決に向けて努力する力がついた
などが挙げられています。

日本のロボット工学の第一人者であり、教育としてのロボットコンテスト提唱者の草分け的存在である森正弘氏(東京工業大学名誉教授)は、ロボコンを通したものづくりの実践と自身の思想を紹介した著書『ロボコン博士のものづくり遊論』(オーム社刊)において、ものづくりによって人の心が育つことを唱え、次のように述べています。

「人は物を尊重し、物は人を育て、互いに、活かし活かされ合う」
「人間は万物にとって意義ある存在とならなければならない。その時、万物は人間にとって真に意義ある存在となる」

高専の依頼を受け、今年の4月から当アカデミー代表の中島が八潮学園7年生の授業を担当しています。これは、NPO法人「科学技術教育ネットワーク(NEST)」としての初仕事になります。当アカデミーの13年に渡る教育実践と極めて共通点の多いこの八潮学園のプロジェクトに参加できることは、とても意義のあることだと感じております。

  【参考文献】
  平成22年度 小中一貫校八潮学園 ものづくり教育プログラム
  ~小・中学校ものづくり学習を通した生きる力育成プログラム~
              (編集 牧野順子、井上徹、中西佑二、西山明彦)


To be continue・・・